007 消されたライセンス[Licence To Kill](1989/英)

1989年 11月 記
     

 ボンド氏に結婚式は似合わない?!…鑑想記#084

 ≪新宿スカラ座≫…のつもりだったが、切り替え間近ということもあって、案の定、地下の≪ヴィレッジ2≫に移っていた。

 いつものオープニングで、とりあえず気持ちはジェームズ・ボンド、ところが続く舞台が旧友の結婚式、スタッフは、あの忌まわしい『女王陛下の 007』の大失敗に懲りていないのか、それとも忘れたか、はたまたかつての失敗を取り戻そうとの想いのあらわれか、いずれにせよ、後の展開を予測させるものとはいえ、ボンド 氏に結婚式は似合わない。

 あろうことか、旧友(CIAのフェリックス・ライター)とその新妻にこんなことまで言わせてしまう。「これを受け取ると、あなたも幸せな結婚ができる」 と、靴下留めを手にしたボンドの顔に憂いの表情を見て、彼女が新郎に言う、「私、何か悪いこと言ったかしら」、「彼は一度結婚したことがあるんだよ」と、フェリックス。 シリーズのファンに対して、全く思い遣りの欠片もないシナリオだ。ただでさえ、スマートさに欠けるとの評判がある、ティモシー・ダルトンのボンド二作目。彼独自のボンドで構わないのだが、 ボンドそのものの本質に影響するようでは困る。

 アクションをふんだんに盛り込んで≪007≫の原点に戻るというのも、わからないではないが、もっと“気障で知的”なカッコよさを見せて欲しい。

 若くて、元気よく動きまわるのも結構だが、例えば酒に関する、どうでもいいような知識とかを独特の台詞まわしで披露してもらいたいところだ。

 カジノでの活躍ぶりも、今回程度では全く不十分、『ダイヤモンドは永遠に』のラスベガスのときのように、じっくりとカジノの雰囲気を再現してほしかった。 舞台のキャリアもあって、巧い役者だと思うのだが、彼なりの“味”が未だ出ていない、出ていないから“前任者”と較べられたりするのだろう。

 残念ながら、今回は駄目、探しても良いところが見当たらない、敵役のサンチェス(ロバート・デビー)はシリーズ歴代でも品のなさではトップ。 その“殺し”の方法も、冷酷というよりは下品。鮫は登場してもいいが、足を食いちぎるなどという、下品なシーンは、このシリーズには合わない。ボンドが最後に使った武器がライター (フェリックス・ライターからのプレゼント)だったのも、それほど面白いとも思えない。

 唯一、Q(兵器開発担当)の、珍しい体当たりの活躍ぶりは、初めてでもあり好感が持てた。女にだらしないボンドにやきもちを焼くパム (キャリー・ロウエル)にQが言う、「情報部員はあらゆる手段を使う必要があるんだ」、「笑わせないでよ」。

 ティモシー・ダルトンへの消化不良は、まあ許せるが、ジョン・グレンにはもう監督をやらせたくない。ボンドはあくまでもスマートでなくてはならない。

 ジョン・グレン監督作品