タイトル 
アデルの恋の物語[1975/上映時間:1時間37分]
製作・監督・脚本 
フランソワ・トリュフォー
ジャン・グリュオー(脚本)
  アデル イザベル・アジャーニ
原作 フランセス・V・ギール   ヒンソン中尉 ブルース・ロビンソン
音楽 モーリス・ジェベール   サンダース夫人 シルビア・マリオ
製作国   ウィスラー氏 ジョセフ・ブラッチリー

 19世紀も中葉、焦がる想いを静めるため、初恋の男を異郷の地まで追い駆け、その傍らでひたすら愛の回復と成就を 待ち望んだ炎の女がいた。「レ・ミゼラブル」で有名なかのフランス近世の大文豪ビクトル・ユーゴーの次女として生まれ、 詩人でもあったアデル(1830-1915)と白面の英国騎兵将校アルバート・ヒンソンとの数奇で、峻烈な愛の葛藤を史実として知る人は少ない。

 これは当時としては型破りな行動力で、一人の男を愛し、また愛されようとし、理想を追い求めた若い女の情念の 恋物語である。

 アデルが生前書き残した日記をもとに構成されたこの“特異”な素材に挑戦したのは、“女”を撮らせては当代随一 のフランソワ・トリュフォー。彼がテレビを観ていて発見した新人女優イザベル・アジャーニがアデル役を熱演し、ここに 名匠と大型新人女優の見事な呼吸が一大傑作ロマンを作りあげた。

 脚本はトリュフォーとジャン・グリュオー(「恋のエチュード」)とスザンヌ・シフマンの共同。撮影は「野性の少年」 の名手ネストール・アルマンドロス、音楽は30年前に他界したモーリス・ジェベールの組曲が効果的に使用されている。

 共演は、「ロミオとジュリエット」などの英国の若手二枚目ブルース・ロビンソン、ベテランのシルビア・マリオ、 ジョセフ・ブラッチリーら。
 1975年度/カロッサ・フィルム作品/ビスタサイズ/イーストマンカラー/5巻・2659m・1時間37分]

 1863年、ヨーロッパ大陸フランスではナポレオン三世が勢力を持ち始め、ここ新大陸では北米に内乱(南北戦争) が勃発した頃、英国は植民地カナダに派兵し、海外からの入国をチェックしていた。そんな時、ここハリファックス に一人のうら若き乙女が上陸した。つぶらな瞳が何か一途な執念と並々ならぬ決意を感じさせる彼女は、名をアデル(イジャベル・アジャーニ) といった。

 アデルが思って止まぬ初恋の男アルバート・ピンソン(ブルース・ロビンソン)を捜し求めて、英領ガーンジー島 を出奔し、たった一人異国の地を踏んだのだ。数日後下宿先のサンダース氏が英軍の歓迎パーティへ出席することを知らされた アデルは、ピンソンへの手紙を氏に託した。しかしそれはすげなく無視された。数日後、よもやと思われたピンソンが 下宿を訪ねてきたが、心はすでに彼女にないその態度はツレなかった。

 アデルの行動は奇矯さを増していった。ピンソンのもとへ通う娼婦に頼み込んで、彼のポケットへ何度も手紙を つっこんだり、男装してピンソンの情事の現場に踏み込もうともした。そんなふるまいの無理、精神的疲労が度重なって 冬のある日彼女は本屋の前で倒れた。

《略》
 益々、常軌を逸した行動に走るアデル。催眠術師を使って彼の心を呼び戻そうとしたり、ピンソンの某 令嬢との結婚にも横槍を入れた。そんな時アデルの母がブラッセルで死亡し、同時にピンソンの隊にカリブ海バルバドス 島への派遣命令が下された。あくまでも男の後を追うアデル。ボロ布のような姿で島の通りをふらつく彼女にはまさに 鬼気迫るものがあった。

 アデルという女の執念の深さに驚く新婚間もないピンソン。しかし熱帯の土地で熱病に襲われたアデルが、再び ピンソンと逢いまみえた時、男の存在は女の意識下にはなかった。

フランソワ・トリュフォー
監督、製作、脚本
 1932年2月6日パリ生まれ。14歳の時H・G・クルーゾー監督の「密告」を 観て感激し、監督を志す。57年にロベルト・ロッセリーニ監督の助監督をつとめ、中篇「あこがれ」を演出し、 ヌーベルバーグのエースとして今日に至る。「大人は判ってくれない」(59)、「ピアニストを撃て」(60)、 「暗くなるまでこの恋を」(69)、「アメリカの夜」(72)など。

イザベル・アジャーニ
アデル
1955年6月パリ第17区生まれ。 ハイスクールで生物学を専攻しながら、演劇にとりつかれ、舞台に憧れた。1970年14歳の時、ベルナール・T・ミシェルに発見 されて「可愛い行商人」でスクリーン・デビュー、次いで72年、ニナ・コンパネーズの「夏の日のフォステーヌ」に出演した。 最新作はロマン・ポランスキー監督の「幻の下宿人」。

ブルース・ロビンソン
ピンソン中尉
64年から67年までドラマ・スクールで演技訓練を積んだ後、フランコ・ゼッフィレッリ 監督の目に止まり、「ロミオとジュリエット」のペンポリオ役に大抜擢。次いで「タム・リン」「秘密会議」「ピーターとローラ」 「眠るために」などに出演後、71年にケン・ラッセル監督「恋人たちの曲/悲愴」でもチャイコフスキーの助手役を好演。