タイトル 
デリンジャー[1973/上映時間:1時間48分/6巻]
製作 
サミュエル・Z・アーコフ   ジョン ウォーレン・オーツ
監督 ジョン・ミリアス【脚本】   メルビン ベン・ジョンソン
撮影 ジュールス・ブレンナー   ビリー ミシェル・フィリップス
製作国   音楽 バリー・デボーゾン

 アメリカ犯罪史上、最も有名なギャング五指に数えられる銀行強盗ジョン・デリンジャーのすべてを描いた。
 1933年から34年にかけて、アメリカ中西部一帯を荒らしまわったデリンジャーの凄まじい生きざま、死にざま、そして 生涯をつらぬいた唯ひとつの愛。それを史実の上に立ってリアルに再現した。

 デリンジャー最後の二年間にドラマの中心に据えながら、仲間のベビー・フェイス・ネルソン、プリティ・ボーイ・ フロイド、ハリー・ピアポンなどの悪党たちとの関り合い、あるいはFBIの鬼主任メルビン・パービスの執念に追われる デリンジャー逃亡のプロセスをつぶさに描いて、実録ならではの醍醐味と面白さをたっぷり満喫させる。

 マシンガンによる凄まじい銃撃アクションと、不況時代の落し子とも言うべきギャングたちの心情を衝く物悲しい 詩情、この二つの要素が交錯し呼応し合って、デリンジャー最後のクライマックスへなだれ込む興奮と迫力は、かつてない 見もの。背景に流れる1930年代のアメリカに託した鮮烈なロマンチシズムが息づく。

 デリンジャーに「荒野の七人」「夜の大捜査線」「ワイルド・バンチ」で異色な演技を見せたウォーレン・オーツ、 デリンジャーが生涯唯一愛した女ビリーには、ミシェル・フィリップス、映画初出演ながらその宿命の愛に生きぬく哀しい 女を好演、ゴールデングローブ賞新人女優賞にノミネートされるなど注目を浴びている。

 デリンジャーを執拗に追いつづけるFBIのパービスの役に、アカデミー賞スター、ベン・ジョンソン、最後にデリンジャーを FBIに売る売春宿の女主人の役に、やはりアカデミー賞に輝くクロリス・リーチマンが渋い演技を見せている。

 銀行に押し入るといきなり、「預金を全部おろしたい!」と凄味をきかせたセリフをはいて、札束を奪って車で逃走 する。これがデリンジャーの犯行手口であった。どんな組織とも、大物とも決して組まない彼の仲間はハリー、チャーリー、 ホーマー、運転手エディ、そしてあるバーで強引に拾ってきたインディアンとの混血娘ビリーの五人。

 彼女は、その足で、とあるカフェにやってきた。うす暗い部屋の中では、父が昼間から男たちを相手に、カードに うつつをぬかしている。マリーの父親は、膝を上にかけた娘のスカートの上から体をまさぐるような男なのだ。男の一人 が、マリーをドレスの上から裸体を見透かそうでもするかのように熱っぽく見つめていた。ジェラールとの出会いであった。

 ジェラールは娼婦のヒモだった。女の稼ぎをまきあげては、派手な指輪や腕輪をしてアメリカの車を乗りまわす。 だが、彼を愛するようになったマリーにとっては、そんなことはどうでもよかった。マリーがジェラールにつかまったこと は、彼女の父も承知の上なのだ。間もなくマリーは、ジェラールの画策でパリのバーで客を取らされることになった。

 マリーと心がかよいあうのは、同じ娼婦仲間のマルーだった。マルーは、変に魅力的な娘だった。どこか投げやりで いながら、瞳の奥には“まごころ”を感じさせる女。客待ちしながら、アンドレ・バザンの本なんか読んでいる。心まで 娼婦になってはいけないと励ましあうことだけが、マリーとマルーの心の支えだった。

 この世に、まごころから信ずべき愛が、本当に存在するのだろうか。それを自ら証すために、マリーは、ヤクザの ゴタゴタに巻き込まれたジェラールを救い出すことに命を賭けた。そして今度は、マリーが自らを救済する番だった。 膝まづいて許しを乞うジェラールをふりきって足を洗うことを決意した。そのためには筆舌につくしがたい辛酸をなめなければならなかった、その時25歳。

ウォーレン・オーツ
ジョン・デリンジャー
 本物のジョン・デリンジャーにそっくりで、しかも演技力の確かな役者。 監督のジョン・ミリアスは、この条件にピッタリ合った男優を探しまわり、遂にこの男に白羽の矢を立てた。ペキンパーの「ワイルド・バンチ」 のやくざなガンマン、「夜の大捜査線」の変態的な警官など、ひとくせもふたくせもある役どころを好演。

ベン・ジョンソン
メルビン・パービス
デリンジャーを執拗に追いまわすFBIシカゴ局のチーフ、パービス。 非情で大胆、実にアクの強い人物だが、これを演じているのは、かつてジョン・フォード西部劇の常連。1971年、「ラストショー」 でアカデミー助演男優賞を獲得。「ジュニア・ボナー」「ゲッタウェイ」などに出演。

ミシェル・フィリップス
ビリー・フレシェット
デリンジャーが、終生、一途に愛しぬいた唯一の女、白人とインディアンの 混血でありるビリー、健気で可憐、デリンジャーの理想の恋人というこのビリーをフレッシュに演じるには、やはり新人女優か、 あるいは素人の新しい個性が必要だったが、コーラスグループ「ママズ・アンド・ザ・パパス」生え抜きの歌手で映画初出演。

クロリス・リーチマン
アンナ・セージ
デリンジャーの居所をFBIに密告する売春宿の女将アンナ。デリンジャーに 好感を持ちながら、結局はFBIに通じてしまう中年女を彼女は、アケデミー助演女優賞を受けた「ラストショー」をうわまわる 印象的な演技で見事に表現している。

ジョン・ミリアス
監督
弱冠29歳の新進、この作品が第一回監督作品。脚本家としては「大いなる勇者」「ロイ・ビーン」 「ダーティハリー2」など多くの話題作で注目を浴びていた。特にバイオレンス・シーンにみせたさえは、ペキンパーの再来と 評判をよんだ。